東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4939号 判決 1978年8月10日
甲事件原告(反訴被告)・乙事件原告(反訴被告) 荒木竹雄
右訴訟代理人弁護士 保持清
甲事件被告(反訴原告) 岡田英二
乙事件被告(反訴原告) 泰正株式会社
右代表者代表取締役 岡田英二
右両名訴訟代理人弁護士 今野昭昌
同 遠藤寛
同訴訟復代理人弁護士 渡辺憲司
主文
一 甲事件
1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
2 反訴被告は反訴原告に対し、四〇〇万円及びこれに対する昭和四六年八月二〇日以降同年一一月二〇日まで年一割五分、同年同月二一日以降完済に至るまで年三割の各割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、全部原告(反訴被告)の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
二 乙事件
1 原、被告間の昭和四五年一月一三日付金銭消費貸借契約に基づく原告の被告に対する四〇〇万円の借入金債務が存在しないことを確認する。
2 原告のその余の本訴請求を棄却する。
3 反訴被告は反訴原告に対し、四〇〇万円並びに内金二〇〇万円に対する昭和四六年四月一六日以降同年八月二〇日まで、内金二〇〇万円に対する同年四月一六日以降同年九月二〇日までいずれも年一割五分の割合による金員及び内金二〇〇万円に対する同年八月二一日以降、内金二〇〇万円に対する同年九月二一日以降各完済に至るまでいずれも年三割の割合による金員を支払え。
4 反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。
5 訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを四分し、その三を原告(反訴被告)の負担、その余を被告(反訴原告)の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
(甲事件)
一 原告(反訴被告)
1 被告は原告に対し、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき、東京法務局調布出張所昭和四六年八月二三日受付第二六〇六五号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
2 原、被告間の昭和四六年八月二〇日付金銭消費貸借契約に基づく原告の被告に対する四〇〇万円の借入金債務が存在しないことを確認する。
3 反訴原告の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は、本訴、反訴とも、被告(反訴原告)の負担とする。
二 被告(反訴原告)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 反訴被告は反訴原告に対し、四〇〇万円及びこれに対する昭和四六年八月二〇日以降同年一一月二〇日まで年一割五分、同年一一月二一日以降完済に至るまで年三割の各割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、本訴、反訴とも、原告(反訴被告)の負担とする。
4 第2項及び反訴に関する訴訟費用の裁判につき仮執行の宣言。
(乙事件)
一 原告(反訴被告)
1 被告は原告に対し、本件不動産につき、東京法務局調布出張所昭和四五年一月一三日受付第六二二号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
2 原、被告間の昭和四五年一月一三日付金銭消費貸借契約に基づく原告の被告に対する四〇〇万円の借入金債務が存在しないことを確認する。
3 反訴被告の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は、本訴、反訴とも、被告(反訴原告)の負担とする。
二 被告(反訴原告)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 反訴被告は反訴原告に対し、四〇〇万円及びこれに対する昭和四六年四月一六日以降同年八月二〇日まで年一割五分、同年八月二一日以降完済に至るまで年三割の各割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、本訴、反訴とも、原告(反訴被告)の負担とする。
4 第2項につき仮執行の宣言
第二当事者の主張
(甲事件)
一 本訴請求原因
1 本件不動産は原告の所有である。
2 本件不動産には、東京法務局調布出張所昭和四六年八月二三日受付第二六〇六五号をもって左記のような抵当権設定登記がなされている。
原因 昭和四六年八月二〇日金銭消費貸借の同日設定契約
債権額 四〇〇万円
利息 年一割五分
損害金 年三割
債務者 原告
抵当権者 被告
3 しかし、後述のとおり右のような金銭消費貸借契約締結の事実も抵当権設定の事実もないから、原告は被告に対し、本件不動産の所有権に基づき右抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるとともに、右金銭消費貸借契約に基づく借入金債務が存在しないことの確認を求める。
二 本訴請求原因に対する答弁
請求原因1、2の事実は認める。同3は争う。
三 本訴抗弁・反訴請求原因
1 被告(反訴原告。以下、単に「被告」といい、特に乙事件被告と区別する必要があるときは、「被告岡田」という。)は、昭和四六年八月二〇日原告(反訴被告。以下、単に「原告」という。)との間で、被告の原告に対する同年二月二〇日付の貸金三五〇万円及び同年五月一八日頃の貸金五〇万円合計四〇〇万円を返還の目的とし、返済期限同年一一月二〇日、利息年一割五分、遅延損害金年三割とする準消費貸借契約を締結し、右契約上の債務を担保するため、同日原告との間で本件不動産につき抵当権設定契約を締結し、右設定契約に基づき原告主張の抵当権設定登記を経由した。
2 よって、原告の本訴請求は理由がないので、その棄却を求めるとともに、反訴請求として、原告に対し、右四〇〇万円並びにこれに対する昭和四六年八月二〇日以降同年一一月二〇日まで年一割五分の割合による約定利息及び同年同月二一日以降完済に至るまで年三割の割合による約定遅延損害金の支払を求める。
四 本訴抗弁・反訴請求原因に対する答弁
1 本訴抗弁・反訴請求原因1の事実は否認する。昭和四六年二月二〇日頃の三五〇万円は、乙事件被告から借り入れたものであり、乙事件請求原因で主張するとおり、同年五月一二日完済されている。
2 同2は争う。
(乙事件)
一 本訴請求原因
1 原告は、昭和四五年一月一三日頃、被告から四〇〇万円を利息月四分の約定のもとに借り受け、右債務を担保するため原告所有の本件不動産に抵当権を設定し、東京法務局調布出張所同年同月一三日受付第六二二号をもって抵当権設定登記を経由した。
2 原告は、右四〇〇万円の借入金債務及び昭和四六年二月二〇日に被告からさらに借り受けた三五〇万円の債務の弁済として、別表(一)記載のとおりの支払をした。
しかして、右返済金のうち利息制限法所定の制限利息を超過する部分を残元本に充当すると、同表のとおり右二口の借入金債務は元利とも完済されたことになり、したがって右抵当権も被担保債権の消滅により効力を失ったものである。
3 しかるに、被告は、本件不動産について右抵当権に基づき任意競売の申立をしたので、原告は被告に対し、右抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるとともに、前記金銭消費貸借契約に基づく借入金債務が存在しないことの確認を求める。
二 本訴請求原因に対する答弁
1 本訴請求原因1の事実は、貸付日及び利息の点を除き、認める。貸付日は昭和四五年一月一二日、利息は月二分の約定であった。なお、返済期限は貸付日から一か月の約定であったが、その後被告は、一か月毎に原告から延期手形の差入れを受けて、返済期限の延長に応じてきた。しかし、同年一二月二一日、原告は、右貸付金を昭和四六年一月から四月まで毎月一〇〇万円宛に分割して毎月一二日限り返済すること及びその間の損害金を月三分とする旨約した。
2 同2のうち、被告が原告から別表(二)のとおり右貸付金元本及び利息・損害金の支払を受け、右四〇〇万円の貸金債権が完済によって消滅したことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同3のうち、被告が原告主張の任意競売の申立をした事実は認めるが、その余は争う。
三 本訴抗弁・反訴請求原因
1 被告(反訴原告。以下単に「被告」といい、特に甲事件被告と区別する必要があるときは、「被告会社」という。)は、昭和四六年四月一〇日頃原告(反訴被告。以下単に「原告」という。)に対し、四〇〇万円を返済期限貸付日から一か月、利息年一割五分、損害金年三割の約定のもとに貸し付けた。その後右返済期限は、原、被告合意の上、同年八月八日と同月二〇日に各二〇〇万円宛返済することに変更された。
2 原告は、右四〇〇万円の借入金債務を担保するため、本件不動産に抵当権を設定し、登記に関しては、原、被告合意の上、本訴請求原因1の抵当権設定登記を流用することとした。
3 したがって、右抵当権設定登記は、右第二回の四〇〇万円の貸付金債務を担保するものとして有効であるから、その抹消登記手続を求める原告の本訴請求の棄却を求めるとともに、反訴請求として、原告に対し、右四〇〇万円並びにこれに対する昭和四六年四月一六日以降同年八月二〇日まで年一割五分の割合による約定利息及び同年同月二一日以降完済に至るまで年三割の割合による約定遅延損害金の支払を求める。
四 本訴抗弁・反訴請求原因に対する答弁
本訴抗弁・反訴請求原因1、2の事実は、いずれも否認する。同3は争う。
第三証拠《省略》
理由
(甲事件)
一 本訴請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によれば、原告は、被告岡田から、昭和四六年二月二〇日三五〇万円を、同年五月二五日頃さらに五〇万円を、いずれも返済期日貸付日から一か月後、利息月三分の約定のもとに借り受けたが、同年八月二〇日、右二口の貸付金合計四〇〇万円を返還の目的とし、返済期日を同年一一月二〇日、利息を月三分とする準消費貸借契約が原、被告間に成立し、原告は、右同日、右準消費貸借契約上の債務を担保するため、本件不動産に抵当権を設定し、同年八月二三日前記抵当権設定登記が経由されたことが認められる。《証拠判断省略》
三 原告は、昭和四六年二月二〇日の三五〇万円の貸主が被告会社であることを前提として弁済を主張しているが、右主張は、右三五〇万円の貸主が被告岡田と認定された場合にそなえた予備的主張をも含むものと解する余地があるので、判断を加えるに、《証拠省略》によれば、原告は、右三五〇万円を被告岡田から借り受けるに際し、月三分の割合による一か月分の利息一〇万五〇〇〇円を天引きされたほか、同年三月一九日同被告に差し入れていた約束手形を書き替えて返済期限を同年四月二〇日まで一か月間延長した際、同日までの利息として一〇万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。このほか、《証拠省略》によれば、原告が額面金額二〇〇万円、支払期日昭和四六年五月一二日の約束手形一通を振出し、右手形が右支払期日に決済された事実が認められるけれども、右手形が右三五〇万円の貸金の返済のため振出され、決済された旨の原告の供述及び右甲第一号証の一七の記載は、《証拠省略》と対比して、措信できない。
そうとすれば、前記天引利息一〇万五〇〇〇円について利息制限法二条所定の充当計算をし、前記支払利息中同法所定の制限利息を超える部分を元本に充当してみても、前記二口の貸金の昭和四六年八月二〇日現在における元利合計額は四〇〇万円を下らないことが計算上明らかであるから、前記準消費貸借契約は元本四〇〇万円全額について有効に成立したものというほかはない。
四 以上によれば、原告は被告岡田に対し、前記昭和四六年八月二〇日の準消費貸借契約に基づき、四〇〇万円とこれに対する右同日以降同年一一月二〇日まで前記約定利率を利息制限法所定の制限利率に引き直した年一割五分の割合による利息及び同年同月二一日以降完済に至るまで同じく年三割の割合による遅延損害金を支払う義務があり、本件不動産に設定された前記抵当権設定登記は、原告の被告岡田に対する右債務を担保するものとして、有効であるというべきであるから、右債務が存在しないことの確認と右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は失当であるが、被告岡田の反訴請求は理由がある。
(乙事件)
一 本訴請求原因1の事実は、貸付日及び利息の点を除き、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、貸付日は昭和四五年一月一三日、利息は月二分の約定であったことが認められ(る。)《証拠判断省略》
そして、右各証拠に、《証拠省略》を合わせると、右貸付金の返済期日は貸付日から一か月後と定められていたが、被告会社は、一か月毎に原告から右約定による月額八万円の利息の支払と差入手形の書替えを受けて、返済期日の延期に応じていたこと、昭和四五年一二月二一日頃に至り、原告と被告会社間において、右貸付金四〇〇万円の返済方法について、右元本を昭和四六年一月から四月まで毎月一〇〇万円宛に分割して各月一二日限り支払うこと及び昭和四五年一二月分以降の利息を月三分とすることの合意が成立し、原告は、右同日被告会社に対し、額面金額一〇九万円(元本一〇〇万円と利息九万円の合計額)・支払期日昭和四六年一月一二日、額面金額一〇六万円(元本一〇〇万円と利息六万円の合計額)・支払期日同年二月一二日、額面金額一〇三万円(元本一〇〇万円と利息三万円の合計額)・支払期日同年三月一二日、額面金額一〇〇万円・支払期日同年四月一二日の約束手形四通を右支払のため振出し、これを各支払期日に決済し、これによって右貸付金は元利とも完済されたことが認められる。(右手形四通による支払がなされたこと及び右貸付金が完済されたことは、当事者間に争いがない。)原告は、右貸付金の弁済状況は別表(一)のとおりであると主張し、《証拠省略》中には右主張に副う部分があるが、前掲各証拠と対比して措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
二 次に、《証拠省略》によれば、原告は、昭和四六年四月一〇日頃、被告会社から四〇〇万円を返済期日貸付日から一か月後、利息月三分の約定で借り受け、右債務を担保するため本件不動産につき抵当権を設定したが、その登記については、その頃原告が前記支払期日同月一二日・額面金額一〇〇万円の約束手形を決済することにより被担保債務が完済されて、その効力を失うことが予定されていた前記抵当権設定登記を流用する旨の合意が原告と被告会社間に成立したこと、右貸付金の返済期日はその後延期され、最終的には、内金二〇〇万円につき同年八月二〇日、内金二〇〇万円につき同年九月二〇日とされたが、その後原告が刑事事件で逮捕、勾留されるに至ったため、右各期日にその返済がなされなかったこと、以上の事実が認められる。《証拠判断省略》
三 以上によれば、原告の被告会社に対する昭和四五年一月一三日の第一回の金銭消費貸借契約に基づく四〇〇万円の借受金債務は元利とも完済されて現に存在しないことが明らかであるが、原告は被告会社に対し、昭和四六年四月一〇日頃の第二回の金銭消費貸借契約に基づき、四〇〇万円並びに内金二〇〇万円に対する右貸付日後の同年同月一六日以降同年八月二〇日まで、内金二〇〇万円に対する同年四月一六日以降同年九月二〇日まで、いずれも前記約定利率を利息制限法所定の制限利率に引き直した年一割五分の割合による利息及び内金二〇〇万円に対する同年八月二一日以降、内金二〇〇万円に対する同年九月二一日以降、各完済に至るまで同じく年三割の割合による遅延損害金を支払う義務があり、右抵当権設定登記は、一旦被担保債務の消滅によりその効力を失ったものの、前記流用の合意により、少なくとも抵当権設定契約の当事者である原告と被告会社の間では、右第二回の金銭消費貸借契約上の債務を担保するものとして、有効に存続しているものと認めるのが相当である。
そうとすれば、原告の本訴請求のうち、右第一回の金銭消費貸借契約上の債務が存在しないことの確認を求める部分は理由があるが(被告会社は、右債務が弁済によって消滅したことを争わないが、本件においては右抵当権設定登記の流用の問題があって、その被担保債務の特定及びその効力の有無を明らかにしておく必要があるので、右債務不存在の確認を求めるにつきなお確認の利益があるというべきである。)、右低当権設定登記の抹消登記手続を求める部分は理由がなく、被告会社の反訴請求は、前記の限度において理由があるが、その余は失当である。
(結論)
よって、甲、乙両事件とも、訴訟費用の負担につき同法八九条、(乙事件につき、さらに)九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 魚住庸夫)
<以下省略>